ペットの病気・気になる症状

適応外処方について

適応外処方とは、医薬品を承認内容に含まれない目的で使用することです。

人医療においては、保険適応であるかそうでないかが重要になってくるようです。

獣医療においては、公的に保険制度がなく、

病気ごとのお薬の保険適応は細かく定められていないため、

いずれ保険関連の大きなトラブルが起こるような気がします。

 

お薬を仕入れると、必ず添付文書という取扱説明書のようなものが付きます。

イクセロンパッチ

それは製薬会社が研究により、

適切な体重あたりの投与法や安全性、禁忌などを調査し記載したもので、

その記載にない処方は、獣医師の自己責任となります。

 

獣医療において、

人間用の薬剤を処方する場合や、

動物種において適応外である薬剤を処方することは多々あります。

これは、動物用医薬品の価格の高さ、流通・種類の少なさから仕方ありません。

そういった場合、薬剤を分割したり、粉砕したり、海外から取り寄せたりします。

それらは全て、獣医師の自己責任による処方となりますので、

万が一に関して、オーナー様に十分に説明しておく必要があります。

 

動物は人間にくらべ、サイズが小さいだけに、大変です。

猫に厳しい季節~特発性膀胱炎とは~

寒い時期は、猫の患者が多く来院されます。

そのうち多くは、排尿困難・血尿・頻尿・そそうなどの尿に関するトラブルです。

この時期は、水を飲まなくなるため尿が濃くなり、また運動量も少なくなるため

膀胱炎のリスクが上がります。

 

ところで、猫には、特発性膀胱炎という病気が有名です。

ん?特発性ってなんだろう?わかりにくいですよね。

よく特発性てんかんなど他の病気でも用いられる「特発性」という名前の定義は、

これといった原因のない」という意味です。

特発性の病気は、「除外診断」によって診断します。

どんな原因もあてはまらなくなるまで検査したのち、

最後に残った病名として使うことが多いです。

犬では、結石症や細菌感染が膀胱炎の主な原因であったりするのですが、

猫では、「これといった原因のない膀胱炎」が

膀胱炎の約半数~2/3を占めているといわれています。

 

img67499503ヒルズ・コルゲート社より

 

当院では、まず一般身体検査にて膀胱を念入りに触診し、尿道が詰まってないか調べます。

その後レントゲン検査と尿検査を行い、結石症と細菌感染を除外します。

(特に早期に去勢されたオスは陰部が小さいため、結石などが尿道に詰まりやすく危険です)

本当はもっと検査しないといけないのですが、猫の膀胱炎の大半はこの病気のため、

ひとまずは「」診断として治療を開始することが多いです。

 

「特発性膀胱炎」の根本的な原因はいまだ明らかではないですが、

交感神経系~副腎皮質機能、つまり「神経原性=ストレス」が一因といわれています。

また、膀胱炎のリスク要因としては、

  • 長毛
  • 肥満
  • 水分摂取量が少ない
  • 運動不足
  • 多頭飼育
  • 性格(怖がり・神経質)
  • 環境の変化

などが挙げられますので、これらに注意が必要です。

 

ならない、また再発しないための対策としては、

  • 太らせすぎない
  • きれいなトイレを用意する(猫の数+1個以上)
  • 邪魔されずに食事や睡眠がとれること
  • 水分量の多いフード
  • 様々なかたちの給水装置
  • 避妊・去勢を行うこと
  • フェロモン剤の使用
  • 野生本能(登る、隠れる、爪とぎ、狩猟など)を満たすことができる環境づくり

などが挙げられます。

 

こういった猫にとってストレスの多い状況と、不十分な環境要因は、

ほとんどの猫のいるご家庭に存在するといわれています。

ストレス社会は、人間のみならず動物にもあてはまるのですね。

獣医師と患者との関係性

何度かそれっぽいことをブログなどで発言していますが、

今回、コラムにてまとめさせていただきます。

 

当院では、慢性疾患に対するセカンドオピニオンのご相談が比較的多くあり、

これも医療の難しさと捉え、日々勉強させていただいております。

ところで、なぜオーナー様は、転院を考えるのでしょうか。

 

よくあるのは、

治療内容を把握していない。

どういう病気か詳しくわからない。

けれども、お医者さんがいうからお薬をあげている。

その他に選択肢がない。

その結果、治らない。

転院を考える。

というもの。

治療計画をご理解いただけていない場合、

オーナー様は、先が見えないまっ暗なトンネルでさまよっているような気分になります。

この現象は特に、

一方的に説明を聞き、言う通りにしている

そういったオーナー様に多いようです。

 

獣医師」と「患者」の関係は、各病院の診療方針によって変化します。

それは、上記のように会話を獣医師が支配し、患者側には選択肢のない

保護監督者」のような関係であったり。

獣医師は医学的情報を提供し、患者には選択肢が与えられ、ともに協力して意思決定を行う

協力者」の関係であったりします。

自分自身が患者の立場となって考えたとき、後者の関係性であってほしいと願うことから、

当院では獣医師はあくまで患者側とは対等の立場で、

ともに考えながら治療にあたりたいと考えております。

加えてオーナー様との、つまり人と人との信頼関係の構築を重視しております。

実際に患者に対し投薬や管理などを行うのはオーナー様です。

そのため、最善と考える医療には、パートナーシップが重要であり、

オーナー様の医療への積極的な協力が必要不可欠となるからです。

 

あくまで、医療とは、患者が治る手助けをするものであり、

実際に患者を治すのは、免疫力、食欲、精神力や環境、周りの支えなどを含めた

患者自身の「生きようとする力」が大きいものと思います。

特に、小児科でよくいわれることでありますが、

動物(子供)にとっての主治医は、我々ではなくオーナー様(保護者)です。

 

昨今では、医療現場ではアドヒアランスという言葉がよく用いられますが、

これは、

患者自身が病態について理解し、治療の必要性を感じて、積極的に取り組むこと

です。

特に、糖尿病など、治療が長期に及ぶ慢性疾患において、このことはきわめて重要となります。

 

動物病院との関係性が合わないオーナー様は転院を考え始めるのだと思います。

もちろん、治療計画がうまくいっていないことが背景としてあるのでしょう。

「転院」という言い方が、裏切りやドクターショッピングなど

ネガティブな連想をさせるのかもしれません。

その点、セカンドオピニオンという言葉は受け入られやすいのでしょうか。

重要なのは、「価値観は人によって違う」ということです。

万人に合う病院、施設は存在しません。

 

私たちは、これが正しいと決めつけず、じっくり話をして、ともに歩み寄り、

なるべく価値観と目的を共有するようにして治療を進めていきたいと考えています。

当院の診療方針について

かかりつけの動物病院を探す際、特に気になるのが、

各病院によってそれぞれ異なる「診療方針」ではないでしょうか。

 

先に述べますが、

私は対症療法(症状に対する治療)は好きではありません。

基本的には、

エビデンス(そうと判断できる証拠)に基づいた原因療法を行いたい

というのが診療方針です。

その場合、検査をしっかりとしたいので、診療価格は高額になる傾向があります。

費用を抑えるよう、企業努力はしていますが、限界はあります。

 

よく言われるのが、

「下痢などの症状を消して欲しいが、あまり検査はして欲しくない」

というものです。

それも当然の考え方であると思います。

治療より、検査のほうが高額なのですから。

しかし、原因を追求せずに、症状を抑えていくことが、

本当に正しい治療行為と呼べるのでしょうか?

 

動物の体には、自己治癒力が備わっています。

下痢・嘔吐であれ、食欲不振であれ、発熱であれ、

症状とは、体にとって健康に戻ろうとする正常なプロセスである場合が多いのです。

その正常なプロセスを、薬などでむやみに止めることは、

下手すれば病状悪化につながる可能性もあるということです。

ステロイドの乱用が良い例でしょう。

 

原因があるから、症状がでるのです。

ということは、

原因を追求し、それを治療すれば、

症状は何もしなくても自然に止まるということです。

 

もちろん、慢性化した症状や、エマージェンシー症例、腫瘍など、

薬などで体のしくみを強引にコントロールしないといけない場合もあります。

シグナルメントによっては、対症療法でもかまわないと思う時もあります。

おこりんぼうであるなど、検査が制限される場合もあります。

 

上記を正論ぽく述べましたが、

実際は、誰にでも適応される100%正しい医療行為は存在しません。

人間である以上、それぞれ考え方や価値観が違うからです。

だからこそ、動物病院の合う合わないが存在するのでしょう。

 

しかし、それを理解した上での、獣医師としての自分の考え方なのですが、

原因を探査せずに症状のみを診ることを、

医療としての正常なプロセスとは思えないのです。

イヌの社会化期とは?

診療のさなか、イヌに吠えるイヌ、イヌを怖がるイヌなど、

あたかも「自分のことを人間だと思っている」ようなイヌをよく見かけます。

これは、自然な現象なのでしょうか。

 

イヌは、最も古くから家畜化された動物と考えられています。

もともとは、イヌはオオカミやジャッカルと同じように群れで暮らす動物でした。

一万年以上も前から家畜化されてきたとは言え、

同族に対するコミュニケーション能力に長けた動物であることは変わりないはずです。

 

子犬には、「社会化期」という時期があるのをご存知でしょうか。

当院ではワクチンなどで来院された子犬さんには、必ずご説明させていただいております。

 

社会化期とは、生後3週~16週齢の、

様々な外界の刺激に免疫をつけやすくなる時期のことです。

混合ワクチン、狂犬病ワクチンなど「体のワクチン」と同様、

心のワクチン」の接種時期ともいえるこの期間は、

健全な精神の発達にきわめて重要な期間といえます。

有名な「8週齢規制」は、

3~8週齢の社会化前期に親兄弟と引き離されることで起こる

精神の未発達を防ぐためのものです。

 

しかし、16週齢までの社会化期は、

8週・11週・14週の混合ワクチンの接種時期と重なっているため、

外に連れ出すことなく家の中だけで過ごしがちな時期でもあります。

すると、せっかくの社会化期に、外界に対する十分な免疫がつかなくなるため、

家族以外の、もの動物などの外界の刺激に耐性がなく、

恐怖や不安を感じやすくなります。

それらは、イヌにとって、多大なストレス負荷となり、

吠える唸る噛み付くといった問題行動につながりやすくなります。

 

家族(人間)だけが自分の世界になってしまうのでは、

自分のことを人間だと思うのも無理はありません。

同じコミュニケーション動物であるヒトもしかり。

オオカミ少女に代表されるような現象が起こりうるのかもしれません。

 

以上、長々と書きましましたが、

つまりは、社会化がイヌの精神衛生上、

非常に大事なことだということです。

 

社会化期に、

抱っこしながら近所を歩いてみたり外界に対する免疫)、

知人を家に招いたり家族以外の人間に対する免疫)、

パピークラスを利用したりして同族に対する免疫)

いろいろなものに対する「心のワクチン」をあたえることはきわめて重要なことです。

そして、それは獣医師ではなく、愛犬の親である家族の皆様の手によって行われるものです。

 

(この時期は、伝染病に対する免疫は不十分なため、ドッグランなど

不特定多数のイヌが集まる場所に連れて行くなどして自由に遊ばせてはなりません。)

 

もちろん、この時期にしか社会化ができないわけではありません。

若い頃に比べれば時間はかかりますが、

社会化トレーニングは何歳からでも始めることができます。

社会化トレーニングは「心」のトレーニングです。

問題行動だけを見てどうにかしようとしてもうまくいきません。

愛犬の「心」に目を向けて、無理せずゆっくりと取り組んでいきましょう。

 

コンパニオンアニマルとして、

イヌの健全な精神の発展と人間社会への馴化が滞ることなく進み、

将来、人間社会に適応するための基盤を築くことは、ホームドクターの責務です。

今後も、パピークラスをはじめ、様々な教室を企画していこうと考えています。