ペットの病気・気になる症状

ARDS(急性呼吸促迫症候群)について

こんにちは

獣医師の中です。

 

5月に入り、予防のシーズン真っ最中です。

 

もちろん、あまり病気をしないことが一番なのですが、

年1〜2回、このシーズンだけ来院される元気などうぶつも多く、

 

 

おっ、ひさしぶり、元気だったみたいやな〜

 

あれ?太った?

 

 

みたいな明るい出会いがたくさんあります。

 

 

どうぶつの方からしたら会いたくないかもしれませんけどね(笑)

 

 

症状のない見た目元気などうぶつが10人来院すると、

9人はそういった出会いなのですが、

1人くらい、

 

 

ん?なんじゃこりゃ?

 

 

と、

意外な病気の症状が発見されたりすることも少なくないため、

このシーズンに病院に通うといった習慣はきわめて重要です。

 

 

 

健康診断をおすすめすると、

「健康に見えるから必要ないのでは 」

という返答が多いのですが、

「健康を確認するための健康診断」

ですので、

病気になってからの

「異常を見つけるための検査」

とは目的がちょっと違うんですね。

 

 

 

動物はちょっとした異常では何にも言わないため、

健康診断で健康を確認すること

がきわめて重要なのです。

 

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さて今回は、あまり聞きなれない病気についてです。

最近

ARDS(急性呼吸促迫症候群)

という救急疾患が動物医療でも認知されてきております。

 

 

去年1例、

当院でも呼吸困難で来院された症例が、

死後の剖検で診断されました。

(そうなんです、力及ばずでした…)

 

 

健康なときの胸部レントゲン

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呼吸困難で来院時のレントゲン

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2枚を比較すると、

2枚目の方は、

胸部の肺の部分がモヤがかかったようになっています。

 

 

予兆なく急性に発症し、

酸素室にて管理しても なお呼吸は悪化、

抗生剤にもまったく反応なし、

数時間で病状は進行し、

助けることができなかった症例です。

 

 

 

症状は肺炎や肺水腫などと同様に呼吸ができなくなるのですが、

原因は呼吸器以外のところにある場合も多いです。

 

 

 

なぜ、別の場所の炎症が原因で、肺がやられるのでしょうか?

「炎症」という言葉がキーワードですね。

 

 

 

そう、肺のように血管の細い場所は、好中球などの炎症性細胞が集まりやすいからです。

これは細菌感染などの際、待ち構えてパクッと貪食しやすいからかもしれません。

 

 

どこかで起きた炎症が引き金となり、

炎症性細胞が暴走すると、

血管の隙間が広くなって血液内の細胞や液体成分が漏れたり、

好中球エラスターゼなどのたんぱく質分解酵素を出したりして、

肺の組織が壊れてくるんですね。

 

肺が潰れると呼吸ができなくなるので、

生物は死の転機をたどってしまいます。

 

 

 

この病態は歌舞伎俳優の中村勘三郎さんが亡くなった原因として、

一時的にテレビでも取り上げられていましたので、

知っていらっしゃる方はおられるかもしれません。

 

 

 

ヒトでは40%前後の死亡率と報告されておりますが、

どうぶつでは残念ながらほぼ100%の死亡率といわれています。

 

症状が出てしまってからでは遅い致死的な病態のひとつです。

 

 

 

 

物いわぬ動物だからこそ、

日頃から、健康状態を注意深く観察していただくこと、

また、定期的な健康診断を受けていただくことをお願い致します。