ペットの病気・気になる症状

当院の診療方針について

かかりつけの動物病院を探す際、特に気になるのが、

各病院によってそれぞれ異なる「診療方針」ではないでしょうか。

 

先に述べますが、

私は対症療法(症状に対する治療)は好きではありません。

基本的には、

エビデンス(そうと判断できる証拠)に基づいた原因療法を行いたい

というのが診療方針です。

その場合、検査をしっかりとしたいので、診療価格は高額になる傾向があります。

費用を抑えるよう、企業努力はしていますが、限界はあります。

 

よく言われるのが、

「下痢などの症状を消して欲しいが、あまり検査はして欲しくない」

というものです。

それも当然の考え方であると思います。

治療より、検査のほうが高額なのですから。

しかし、原因を追求せずに、症状を抑えていくことが、

本当に正しい治療行為と呼べるのでしょうか?

 

動物の体には、自己治癒力が備わっています。

下痢・嘔吐であれ、食欲不振であれ、発熱であれ、

症状とは、体にとって健康に戻ろうとする正常なプロセスである場合が多いのです。

その正常なプロセスを、薬などでむやみに止めることは、

下手すれば病状悪化につながる可能性もあるということです。

ステロイドの乱用が良い例でしょう。

 

原因があるから、症状がでるのです。

ということは、

原因を追求し、それを治療すれば、

症状は何もしなくても自然に止まるということです。

 

もちろん、慢性化した症状や、エマージェンシー症例、腫瘍など、

薬などで体のしくみを強引にコントロールしないといけない場合もあります。

シグナルメントによっては、対症療法でもかまわないと思う時もあります。

おこりんぼうであるなど、検査が制限される場合もあります。

 

上記を正論ぽく述べましたが、

実際は、誰にでも適応される100%正しい医療行為は存在しません。

人間である以上、それぞれ考え方や価値観が違うからです。

だからこそ、動物病院の合う合わないが存在するのでしょう。

 

しかし、それを理解した上での、獣医師としての自分の考え方なのですが、

原因を探査せずに症状のみを診ることを、

医療としての正常なプロセスとは思えないのです。

イヌの社会化期とは?

診療のさなか、イヌに吠えるイヌ、イヌを怖がるイヌなど、

あたかも「自分のことを人間だと思っている」ようなイヌをよく見かけます。

これは、自然な現象なのでしょうか。

 

イヌは、最も古くから家畜化された動物と考えられています。

もともとは、イヌはオオカミやジャッカルと同じように群れで暮らす動物でした。

一万年以上も前から家畜化されてきたとは言え、

同族に対するコミュニケーション能力に長けた動物であることは変わりないはずです。

 

子犬には、「社会化期」という時期があるのをご存知でしょうか。

当院ではワクチンなどで来院された子犬さんには、必ずご説明させていただいております。

 

社会化期とは、生後3週~16週齢の、

様々な外界の刺激に免疫をつけやすくなる時期のことです。

混合ワクチン、狂犬病ワクチンなど「体のワクチン」と同様、

心のワクチン」の接種時期ともいえるこの期間は、

健全な精神の発達にきわめて重要な期間といえます。

有名な「8週齢規制」は、

3~8週齢の社会化前期に親兄弟と引き離されることで起こる

精神の未発達を防ぐためのものです。

 

しかし、16週齢までの社会化期は、

8週・11週・14週の混合ワクチンの接種時期と重なっているため、

外に連れ出すことなく家の中だけで過ごしがちな時期でもあります。

すると、せっかくの社会化期に、外界に対する十分な免疫がつかなくなるため、

家族以外の、もの動物などの外界の刺激に耐性がなく、

恐怖や不安を感じやすくなります。

それらは、イヌにとって、多大なストレス負荷となり、

吠える唸る噛み付くといった問題行動につながりやすくなります。

 

家族(人間)だけが自分の世界になってしまうのでは、

自分のことを人間だと思うのも無理はありません。

同じコミュニケーション動物であるヒトもしかり。

オオカミ少女に代表されるような現象が起こりうるのかもしれません。

 

以上、長々と書きましましたが、

つまりは、社会化がイヌの精神衛生上、

非常に大事なことだということです。

 

社会化期に、

抱っこしながら近所を歩いてみたり外界に対する免疫)、

知人を家に招いたり家族以外の人間に対する免疫)、

パピークラスを利用したりして同族に対する免疫)

いろいろなものに対する「心のワクチン」をあたえることはきわめて重要なことです。

そして、それは獣医師ではなく、愛犬の親である家族の皆様の手によって行われるものです。

 

(この時期は、伝染病に対する免疫は不十分なため、ドッグランなど

不特定多数のイヌが集まる場所に連れて行くなどして自由に遊ばせてはなりません。)

 

もちろん、この時期にしか社会化ができないわけではありません。

若い頃に比べれば時間はかかりますが、

社会化トレーニングは何歳からでも始めることができます。

社会化トレーニングは「心」のトレーニングです。

問題行動だけを見てどうにかしようとしてもうまくいきません。

愛犬の「心」に目を向けて、無理せずゆっくりと取り組んでいきましょう。

 

コンパニオンアニマルとして、

イヌの健全な精神の発展と人間社会への馴化が滞ることなく進み、

将来、人間社会に適応するための基盤を築くことは、ホームドクターの責務です。

今後も、パピークラスをはじめ、様々な教室を企画していこうと考えています。